2014年8月18日月曜日

2014.08.16 水星交響楽団創立30周年記念特別演奏会

たましんRISURUホール 大ホール

● “フロイデ”を見ていたら,この夏にマーラー9番を演奏するところがある。その名を水星交響楽団という。「一橋大学管弦楽団の出身者を中心に結成されたアマチュア・オーケストラ」であるらしい。
 そうそうは聴けないからね。で,行ってみようかと思って,前から手帳に書いておいた。

● なんだけど,「入場無料ですが,整理券が必要ですので,当団ホームページより整理券の引き換え申し込みをお願いします」とあるのに気づいたのは演奏会の前日のことだった。当然,すでに締切りは過ぎている。
 当日券がないっていうのは,有料無料を問わず,あまり体験したことはないけれど,まったくないわけではない。大丈夫だろうかと思って,過去の演奏会について記されているブログのいくつかを読むと,かなり人気のアマオケらしい。いよいよ心配になった。

● が,予定どおりに出かけてみた。だいぶ早めに着くようにしましたよ。結果,案ずるより産むが易し。めでたくチケットを受け取ることができた。
 じつは,今朝出かけるときは,かなりの雨だった。途中でやんだんだけど,このときはむしろ雨を歓迎する気分でしたね。これで客足が鈍るぞ,と。

● 開演は午後1時半。曲目は次の2つ。指揮は齊藤栄一さん。
 伊福部昭 オーケストラとマリンバのための「ラウダ・コンチェルタータ」
 マーラー 交響曲第9番 ニ長調

● まずは「ラウダ・コンチェルタータ」。最初の弦の一閃で,恐れいりましたという気持ちになった。こりゃすごいわ,期待できるぞ,と。
 ただし,演奏する方はすごくても,聴く方がさほどでもない。伊福部昭って名前はもちろん知っている。といっても,ヴァイオリンと作曲を独学で勉強したこと,ゴジラをはじめ映画音楽を作っていることくらいだ。たしか,今井正監督の「真昼の暗黒」も伊福部さんが音楽を担当していたと思う。

● マリンバ独奏は山本勲さん。この楽団の団員でもある。左右2本ずつ,あわせて4本のマレットが上下左右に忙しく行き交う。
 日本の祭り囃子を思わせるところもあり,否応なしにこちらの気持ちを揺さぶる。いくら日本から超然としていたいと思う人でも,あのリズムには体のどこかが反応してしまうものだろう。

● これだけの演奏をするアマオケが東京にはほかにもあるんでしょうね。そのいくつかはすでに知っているけれども,この層の厚さっていうのは,さすがに東京だな。お江戸でござる。

● マーラーの9番。直近では今年の3月にユーゲント・フィルハーモニカーの演奏で聴いている。ぼくに関していうと,CDで聴いてもダメ。ぜんぜん入っていけない。
 生演奏なら入っていけるのかよ。CDよりは。という程度なので,アレコレ言う資格はない。
 演奏は収束もピタッと決まって,百パーセント小姑になりきるのでもない限り,まず文句のつけようがないものだった。

● この演奏会のプログラムノートも力のこもったもので,その曲目紹介によれば,この曲は「最後に残された僅かな時間に行った最もつきつめた思索と,誰よりも愛した現世への切々たる未練の念の吐露」だというのだけれど。
 「3歳の子どもですら,この曲が持つ深く激しい精神性を感じ取った」エピソードも紹介されている。とすると,ぼくの感性は3歳の子どもにも劣るかもしれない。

● そうなんだろうか。そういう理解でいいのか。
 茫漠としたイメージがある。だだっ広い原っぱのような。ひょっとすると,マーラーは世界そのものを音符にしたかったのかもしれないという気もするんだけど,まさかな。聴きながら,マーラーはこの9番で何がしたかったのかと考えることがあった。
 ただ,この曲を死で要約しちゃうと,それはちょっとと思う。この曲に死の匂いはさほどないように思うんだよなぁ。相当以上に鈍いからか。
 演奏する側にとってだけでなく,聴く側にとっても難解極まる曲であることは確かで,そこにまた不思議な魅力もある。もう一度聴きたくなる。

● ところで。会場のたましんRISURUホールは立川にある。立川といえば,ぼくにとってはゲッツ板谷『ワルボロ』の舞台になった街。
 会場に向かう途中,錦町と住居表示されている電柱があった。コーチャンたちの錦会はこのあたりを根城にしていたのかと思いながら,通り過ぎた。
 今の立川はあの頃の立川とは違うでしょ。『ワルボロ』臭を嗅ぎとることは難しい。チェーンのファストフード店が蝟集している。質屋が残っているようだ。狭い路地を行くと,常連さんだけで成りたっていると思える飲み屋がある。現在のリアルな立川は,つまり普通の街だ。あの街は『ワルボロ』の中にだけある。

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