メンバーは不動ではなく,入れ替えはある。が,上記の定義を変更する必要はこれを認めない。
● 一芸に打ちこんできた人たちが,その一芸を披露するときに発する凜々しさのようなものは,邦楽に限らず,それが何であっても見られるものだ。
加えて,邦楽演奏となれば,ドレスのほかに和服が付きものだ。ステージに立つのに外見を等閑に付すバカはよもやいないと思うが,邦楽の場合は等閑に付すことを許さない強制因子が強力に働くようだ。
というわけなので,正直に申しあげると,この演奏会に出向く際に,箏の音色を聴きたいというほかに,外見の美を愛でたいという気持ちがなかったとはいえない。いや,半分はそうだったかも。
● 開演は午後2時。チケットは1,000円。去年のうちに前売券を買っておいた。2013年に当日券がなくて入れなかったことがあるので,念を入れたわけだった。
演奏会名に「邦楽ゾリスデン」が大文字で入っていた頃の話ではあるんだけども。
● まずは,菊岡検校「ながらの春」。この曲から琵琶湖畔の桜を思い浮かべて,脳内に作ったその情景の中で,行く春を惜しむという芸当を演じてみせることはぼくにはできなかったが,駘蕩たる曲で,そこに謡が入るから,長く聴いているとトランス状態に落ちていくかも。
そうはならないのは,奏者を見てしまうからだ。艶やかにして清楚。見る楽しみってたしかにあるんですよ。ピュアなものとしてね。
● ユースの中にさらにジュニアというのがあるらしい。小学生とか中学生。そのジュニアが演奏したのは,沢井比河流「夢の輪」。
短い旋律を積みあげて巨大な構造物を造っていくベートーヴェン的な手法を感じたのだけども,ベートーヴェンの楽譜には絶対にそのとおりには弾けないと思える箇所がいくつもある。この曲にはさすがにそれはないのだろう。
暴れん坊将軍,仮面ライダー,必殺仕事人,キューティーハニー,Miracle go! プリンセスプリキュア,ムーンライト伝説,の主題歌をアレンジしたもの。こういうのってバカにできないと思った。ムーンライト伝説に移ったときに,何だかググッと来るものがありましたよ。
この曲の旋律と箏の音色の取り合わせって,かなりいいんですよ。何なんですかね,これね。仕上がりがとてもセクシー。
● 最後は,沢井忠夫「箏のための小協奏曲 ファンタジア」。プログラム冊子の“曲解説”に曲の構造が説かれているが,それはそれとして。この演奏からぼくが感じたものは,途方もない緊張感だ。
目をむくような超絶技巧は用いられていないようなのだが,音と音の緊密感,音のまとまりともうひとつのまとまりが作りだすただならぬ調和と反発。それらが作りだすピンと張りつめた,一分の弛みもない世界。
その世界に長くはとても住めないが,たまに接すれば,それ自体が快をもたらしてくれるだろうと思った。その快は稀少なものであるだろう。
● 箏が出すことができる音色のすべて,箏の奏法のすべてが,この曲の中に散りばめられているようにも思われた。
「沢井忠夫作品集 CD全5枚組セット」の中にこの曲も収録されている。YouTubeにも音源はある。聴こうと思えば,方法はいくらでもあるということだ。
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