2021年4月30日金曜日

2021.04.24 スコペルタフィルハーモニー交響楽団 第1回定期演奏会

江戸川区総合文化センター 大ホール

● 新小岩駅。この駅で降りるのは生涯でたぶん3度目。駅前のカオス状態が気持ちいい。
 駅前に関しては飲食店はチェーン店が席巻している。これはまんま地方都市。が,ルミエール商店街に入っていくと様相が違ってくる。個人商店街だから。
 このアーケードを歩いている途中で,葛飾区から江戸川区に入る。川や峠が境だという思い込みが強すぎるんだろうか,アレッと思ってしまう。区境がたぶんに人工的なものでもあるんだろうけど。

● 新小岩駅から歩いて,着いたところが江戸川区総合文化センター。ここにくるのは,たぶん二度目。
 写真からは閑静なところにあると思われるかもしれないが,基本的に新小岩駅からのカオスが続いている。ぼくの目の前を幼児を乗せた自転車が横切って,ギクリとする。歩行者と自転車が入り混じって通行している生活路を,車がスピードを落とさずに走り抜けていく。
 これで人と自転車と車の3者が共存しているのだから,自ずからなるバランスが存在するのだろう。不思議なところだ,葛飾と江戸川。

江戸川区総合文化センター内部
● ここに来た目的はスコペルタフィルハーモニー交響楽団の立上げ公演を聴くこと。“東京藝大生×若手アマチュア” と前冠(?)が付いているのだが,指揮者と首席奏者を藝大の現役生が務めているらしい。
 彼等がトレーナーをも兼ねていて,練習から本番まですべての過程に参画するという形で運営している。

● 開演は19時。チケットは1,000円。当日券もあったようだけども,原則は事前予約制。事前に申し込んでいた。電子チケットで入場。
 曲目は次のとおり。指揮は村上史昂さん。彼も藝大の学生であるわけだ。「“狂想-共創” 的断章」の作者である天野さんも藝大作曲科の現役生。
 フンパーティンク 歌劇「ヘンゼルとグレーテル」序曲
 天野由唯 “狂想-共創” 的断章
 ベートーヴェン 交響曲第5番

● ベートーヴェンの5番は第4楽章の勝利宣言が白眉なのだろう。遺書まで書いたベートーヴェンが,それでも人生は生きるに値すると全力で謳いあげるところ。
 釈迦が臨終に際して,アーナンダにこの世界は美しいと告げる場面がある(釈迦が本当にそう言ったのではなく,後世の人たちが言わせたのだと思うのだが)。この世は苦だと喝破し,その苦界をどう生きればいいのかを考え抜いた釈迦が,最後にこの世界は美しいと言う。
  アーナンダよベーサーリーは楽しい
  ウデーナ霊樹の地は楽しい
  ゴータマカ霊樹の地は楽しい
  七つのマンゴの霊樹の地は楽しい
  タフブッダ霊樹の地は楽しい
  サーランダ霊樹の地は楽しい
  チャーパーラ霊樹の地は楽しい

● その釈迦の境地にベートーヴェンも至ったものだろうか。釈迦の境地を音楽に翻案すればベートーヴェンの5番になるんだろうか。
 その境地は力に満ちている。もっと言うと娑婆っ気に溢れているようにも思われる。娑婆っ気が艶となり,この楽曲の潤いになっているように感じる。
 逆にいうと,アーナンダにこの世界は美しいと告げたときの釈迦もまた,力に溢れていたのかもしれない。成熟を重ねてきれいに枯れた末の境地なのではなく。

● ベートーヴェンのその心情を思えば,ここで泣かなければ人じゃない(?)。しかし,CDで涙は流れない。カラヤンのベルリンフィルでも,カルロス・クライバーのウィーンフィルでも。
 けれども,生演奏だとそこのところが切々と伝わってくる。今回のスコペルタの演奏は,タメにタメた力を一気に解放したような,思い切りよく弾けたような。若さが持つ力だろう。

● 苦悩を通して歓喜に至るとか,暗から明へといわれるけれども,苦悩や暗にも実が詰まっているところが,ベートーヴェンの魅力。そうしたことをヴィヴィッドに示してくれる演奏だったと思う。
 とりわけコンミス(彼女も藝大の学生さん)のコンミスぶりがお見事。要するに,相当な使い手なんですよね。

● 東京は明日から緊急事態宣言下に置かれる。この演奏会が明日の予定だったら開催できたろうか。際どかったねぇ。
 今日の新小岩駅前のカオスも,明日から百貨店が休業するのを受けて,自衛に走った人たちが作ったものかもしれない。黄金週間を前に,ヤレヤレの週末となってしまった。

2021.04.18 宇都宮ピアノ研究会 第31回スプリングコンサート

栃木県総合文化センター サブホール

● この演奏会を知ったきっかけは,栃木県総合文化センターのサイトの「イベントカレンダー」なんだけども,そこにはスプリングコンサートとだけあって,それ以上のことはわからなかった。
 でも何だかちょっと気になっていて,頭の隅っこの方に引っかかっていた。

● 数日後,総合文化センターに行ってみた。それ以上の情報があるかと思って。チラシというか,ほとんどプログラムなのだが,それが置いてあって概要を知ることができた。
 宇都宮ピアノ研究会というのがあることも初めて知った。すでに31回を数えるのだから,30年前には存在していたことになるのだけれども,ぼくは全然知りませんでしたよ。

● そのチラシに聴き方も書いてあった。入場は無料だけれども,事前予約が必要。電話番号が書かれてあって,電話かショートメールで申し込んでくれという。
 ので,Googleの “メッセージ” を使って,予約を入れた。で,無事に聴くことができましたということ。開演は14時。

● 曲目は次のようなものだった。
 ショパン ノクターン第7番 嬰ハ短調
 ドビュッシー 「版画」より “塔”

 ジョー・ガーランド イン・ザ・ムード
 菅野よう子 花は咲く 
 ドビュッシー 「前奏曲集」より “ヒースの茂る荒れ地” “風変わりなラヴィーヌ将軍”

 レ・フレール Follow Me!
 サティ スポーツと気晴らし,ジュ トゥ ヴ
 宮沢和史 風になりたい

 プロコフィエフ ピアノソナタ第1番 ヘ短調
 シューベルト 幻想曲
 シューマン アベッグ変奏曲
 モーツァルト ピアノ四重奏曲第1番(第1楽章のみ)

● 当然,演奏はピアノがほとんどなのだが,「風になりたい」はいろんな打楽器で奏される曲だし,四重奏曲には当然,弦楽器が入る。
 ピアノにしても連弾もあり,クラシックがメインだけども,ジャズっぽいの,ポップスっぽいの,サンバっぽいのもあって,観客を楽しませ,自分たちも盛りあがる,という趣向のようだった。

● プログラムの曲目解説は,インターネットから引き写したものがわりと多い。悪いことでも問題があるわけでもないと思うが,引き写しではない解説を読むと,何がなしホッとするというところはある。
 重箱の隅を突くようなことを申しあげて申しわけないのだが,あまりカクカクした解説はそもそも必要ないようにも思う。

● プロコフィエフのソナタとシューマンのアベッグ変奏曲が白眉だと思った。が,このあたりは演奏がどうのこうのではなくて,聴き手の曲に対する好みによるものだ。
 このような機会に接すると,ピアノ曲のCDも整えなきゃなと思う。まともには聴けていなかったと思うので,環境整備から始めてみようか,と。

● 管弦楽曲に比べれば,生とCDとの落差は小さいはずだが,小さいというのはゼロではない。0と1の差は1と10の差よりも大きい。
 ゆえに,生演奏を聴く機会もコマ目に捕えていきたいものだが,勉強する姿勢はとりたくない。が,ある程度は勉強もしないと楽しめるところまで行けない。自分はまだそこまで行けていないと思うので・・・・・・と堂々巡りをしそうだな。

2021.04.11 東京楽友協会交響楽団 第110回定期演奏会

すみだトリフォニーホール 大ホール

● コロナのまん延防止等重点措置が東京に適用された。にもかかわらず,東武電車に乗って,その東京にやってきた。聴きたい演奏会があったのだから仕方がないのだ。
 ま,本当に仕方がないのかどうかは定かではない。東京行きは控えるべきなのかもしれない。どれが最善手なのか。正直なところ,わからない。

● 仮にわかったところで,わかったようにやれるかといえば,それもわからない。これまで東京には二度,非常事態宣言が出ているが,その最中にも東京に出かけていた。宿泊していたこともある。
 普段とあまり行動を変えていない。確たる信念(?)があってのことではない。変えない方が楽だからというのがひとつ。
 もうひとつは,コロナに対してタカを括っているからだ。三密を避けて人の飛沫が飛びかうところに近づかなければ大丈夫だと思っている。実際,そのようにしてきて,今までは大丈夫だった。

● 御託はどうでも,今日はすみだトリフォニーホールで東京楽友協会交響楽団の定演がある。チケットは1,000円で,全席指定&事前購入制。【teket】を利用。
 このやり方にもすっかり馴染んだ。ちなみに,ぼくの席は1階-15列-11番だった。ちょうどいい席が空いていた。
 開演は13時30分。曲目は次のとおり。指揮は森口真司さん。
 プロコフィエフ 交響曲第1番「古典」
 ストラヴィンスキー バレエ組曲「プルチネルラ」
 メンデルスゾーン 交響曲第5番「宗教改革」

● メンデルスゾーンの交響曲で3番,4番以外を生で聴いたことはあったろうか。記憶に残る限りはない,と言いたかったのだが,今年の1月にハイリゲンシュタット・フィルハーモニー管弦楽団の創立演奏会で1番を聴いていた。
 しかし,それだけだろう。5番を生で聴くのは今回が初めてだ。2番はかなり大掛かりになるので,はたして聴く機会があるかどうか。
 ちなみに,今回のプログラム解説でも触れられているが,メンデルスゾーンの交響曲を作曲順に並べると,1→5→4→2→3,となる。

● そのメンデルスゾーンの5番が素晴らしかった。言葉も出ない。端正が基本にあり,力に満ちていて,仕上げは流麗。
 前夜,コロナ隆盛によりキャンセルを受付けるとのメールが入ったのだが,キャンセルした人はいたのだろうか。いたとしたら,その人は選択を誤った。つまらぬ理由で大切なものを捨ててしまってはいけない。

● と思わせる演奏だったということ。東京にはとんでもない水準のアマオケが,ぼくが知っているだけでも十指に余る数存在するが,ここは間違いなくそのひとつ。
 コロナマンボウごときで聴くのを諦めてはいけなかったろうね。

● ストラヴィンスキーはココ・シャネルと愛人関係にあったことを知って,俄然,興味が湧いた。何というミーハー。
 しかしだね,シャネルが愛人に選ぶほどの男なのだから,仕事を通じてただならぬオーラを出していたに違いないのだよね。
 ショパンもそうだったのだろうし,ベートーヴェンも然りだったのだろうが,何かに一心に打ち込んでいる状態を継続している男性っていうのは,魅力的なのだろうと思いますよ。

● その対極にいるのが,女の尻を追いかけている男。若いのに妙に女あしらいが上手い男っているでしょ。けれども,そうだった男は,意外につまらない人生を送っちゃってるでしょ。
 彼の世界にはつまらない女しか入ってこなかったからというのが,たぶん理由の1つだね。類は友を呼んじゃうんだよね。ストラヴィンスキーを研究した方がよろしいでしょう。

2021.04.04 森村学園中高等部管弦楽部 第16回定期演奏会

ミューザ川崎 シンフォニーホール

● オーケストラの生演奏を聴く場合,まずはいつどこでどの楽団が演奏するのかを知らなければならない。今はインターネットがあるので便利だ。
 “オケ専” とかでチェックしていくわけだが,森村学園の名前はこれまでも何度か見ていた。その度に,ふぅん,こういうところがあるのか,と思った。今回,やっと聴く機会を得た。

● 開演は13時30分。入場無料だが,座席は指定。事前にメールで申込むと指定席の番号が返送されてくる。こういう時期ゆえ,良くも悪くもこの方法しかないだろう。
 指定された席は4階。ミューザに悪席なしと思っているけれど,4階席は初めてだった。さすがにステージが遠い。

● 学園の案内によると,「本校の管弦楽部は,中等部1年生から高等部2年生まで約80名で活動して」おり,「その部員のほとんどは中等部に入学してから楽器を始め,中には楽譜も読めずに始めた部員も多くいます」とのこと。
 それはそうだろう。小学校を卒業した段階で楽譜を読める人はまずいない。小学校の音楽の授業で楽譜の読み方など習わないからだ。ピアノやヴァイオリンを習っていたのでもない限り,それが普通だ。

● 中学生から始めるのなら早い方だ。プロを目指すにはそれでは遅いのだろうが,プロになって何かいいことがあるのかというのはよくよく考えるべき問題であって,平凡なプロになるよりはアマチュアにとどまる方が賢いのではないかと,ぼくなんぞは思っている。
 平凡なプロよりは傑出した(傑出していなくても)アマチュアでいる方が,断然コスパがいいのだ。人生をコスパだけで測るのは寂しすぎるという意見もあるだろう。そのとおりだけれども,そうは言っても,人は口に糊していかねばならないのだ。コスパを等閑に付してはいけないと思う。

● 曲目は次のとおり。指揮は顧問の深井祥二さん。
 ベートーヴェン 交響曲第8番 へ長調
 チャイコフスキー バレエ「白鳥の湖」から抜粋
 シルヴェストリ 交響組曲「フォレスト・ガンプ」
 マイヤーズ カヴァティーナ
 ディズニー・ファンタスティック・セレクション

● 行儀のいい生徒さんだなというのが,第一印象。先生の言うことをよく聞いて,一生懸命に練習してきたのだなと思えた。
 中学生と高校生がベートヴェンの8番を演奏しているのだ。技術や技巧だけに着目するのであれば,プロオケと比べれば,アメリカのメジャーと日本の高校野球の地区大会ほどの差があるに違いない。あたりまえのことだ。
 それでは,メジャーの野球は観戦するに値するけれども,高校野球は観ても仕方がないものか。もとより,そんなことはない。メジャーにはメジャーの,高校野球には高校野球の面白さがあり,観戦の視点がある。
 高校野球に入れあげて,メジャーなんてと言うのもつまらないが,その逆はもっとつまらないだろう。

● 楽器を始めてまだ年端もいかぬのにここまで仕上げてくる進歩の速度は,この年代にしかないものだ。成人になってから同じようにやってみろと言われたって,できるわけがない。無理というものだ。まずはその驚異を味わう。
 次は,コンミスの女子生徒がコンミスたろうと一生懸命なところ。そこもまた味わうに足る。

● 「白鳥の湖」は“情景” “4羽の白鳥の踊り” “ハンガリーの踊り” “スペインの踊り” “小さな白鳥たちの踊り” “フィナーレ” の6曲。組曲版と重なるのが半分。
 “情景” の冒頭の旋律(白鳥の主題)は,白鳥の姿に変えられてしまったオデットが,王子に向かって「ここよ。私はここにいるのよ」と切なく訴える,その訴えの音楽的アイコンになっている(と思っているのだが)。
 トップバッターのオーボエが,そのオデットの切ない訴えをどこまで載せて歌えるか。ここが聴きどころ。ここが上手く行けば,あとは流れのままに。・・・・・・上手く行った。

● このあとは映画音楽。マイヤーズ「カヴァティーナ」は「ディア・ハンター」で使われているらしい。らしいというのは,ぼくはこの映画を見ていないからだ。
 「フォレスト・ガンプ」も見ていない。何だか恥ずかしくなってきた。「ドラえもん」の劇場版ばかり見ていてはいけないかもなぁ。「ドラえもん」は「ドラえもん」で面白いんだけどね。

● ディズニー・セレクションはアンダー・ザ・シーなど7曲。重いものを先にこなして,最後ははじけて終わるという趣向だったのだろうか。
 3年生はこれで部活を終えて,これからの1年間は受験に専念するんだろうか。少し早すぎる引退のようにも思えるけれども,都会ではこれが普通なんだろうかね。

2021年3月31日水曜日

2021.03.21 ユーゲント・フィルハーモニカー 第15回定期演奏会

ミューザ川崎 シンフォニーホール

● 1年前を思いだす。予定されていた演奏会が次々に中止になる中で,ユーゲント・フィルハーモニカーだけは持ちこたえていた。スワッ,やるのか。
 結局,中止にはなったんだけどね。何だか希望の星的な存在だった。
 初期感染拡大期のエピソードとも言えないエピソード。

● この楽団の演奏は過去7回ほど聴いている。第4回,7回,8回,9回,10回,12回,13回。第14回が中止になった昨年。
 会場は文京シビックからすみだトリフォニー,杉並公会堂と経巡って,今回はミューザ川崎。ユーゲント・フィルといえばすみだトリフォニーと思ってしまっていたんだけども,そうでもないようなんでした。

● 開演は13時30分。チケットは1,000円。お約束の事前申込の電子チケット制。コロナを機にリモートワークが一挙に広がったように,電子チケットもコロナによって拡散した。
 コロナが収束してもリモートワークは残るだろう。同じように,電子チケットも残ってくれるといい。コロナが消えたからといって,現金引換の紙チケットに戻る必要はない。

● 曲目は次のとおり。指揮は三河正典さん。
 シューベルト 劇音楽「ロザムンデ」序曲
 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
 R.シュトラウス 交響詩「英雄の生涯」

● 何度も聴いているのだから,腕のほどはわかっている。メンバーの入替えはあるに決まっているが,楽団の風合いはほぼそのまま残る。
 実際には微妙に変わっているに違いないのだけれども,それに気づける人はおそらくいないだろう。10年,15年というまとまった時間が過ぎて初めて,そういえば昔はこうじゃなかったな,と気がつく性質のものだ。

● ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番では結城奈央さんのピアノを近い場所で聴けて幸せだった。彼女のピアノはじつは一度だけ聴いたことがある。2014年のコンセール・マロニエ21の本選(声楽部門)でピアノ伴奏を担当していた。
 そのときの様子を綴った自分のブログを読み返してみた。彼女のピアノについては何も書いていない。何か書いとけよ,俺。
 脱線するけれど,こうしてブログの形で記録を残しておくことの利点のひとつはここにある。自分のブログを対象に,Googleの検索エンジンで全文検索ができる。「結城奈央」で検索をかけると,その結果をサッと示してくれる。

● 「皇帝」で最も印象に残ったのは,終曲間際のティンパニの幽き響き。これこそが「皇帝」なのだ。
 ユーゲント・フィルの演奏を聴くと,よく似たテイストの楽団名が2つ3つ浮かんでくる。多くのアマチュア・オーケストラが目指している共通の境地があって,そこに近づけている楽団がユーゲント・フィルをはじめとしていくつかあるということか。たぶん,見当外れのことを言っているね。

● 細密なアンサンブルを最後まで崩さず,アンコールを含めると3時間近いボリューミーな演奏会になった。
 アンコールはワーグナーの「パルジファル」第3幕より “聖金曜日の音楽”。

● 結城さんのアンコールはフリードリッヒ・グルダ「アリア」。グルダはピアニストとして破格の人だが,彼が作曲した楽曲の中ではこの曲が最も知られているらしい。
 って,ぼくは知らなかった。CDも「チェロと吹奏楽のための協奏曲」はあるのだけど,「アリア」は持っていない。何とかしよう。

2021.03.20 バリオケ初公演

府中の森芸術劇場 ウィーンホール

● さて,今日はダブルヘッダーの予定を組んである。東京に泊まる。
 2つめの演奏会は19時半開演なので,それが終わってから帰宅の途についても,今日中にわが家に辿り着くことはできない。新幹線を使えば可能だけれども,そんなことをするくらいだったら泊まってしまった方が話が早い。


● 場所は東府中。予約したのは銀座のビジネスホテル。銀座からなら1時間くらいかと思って,余裕を見込んで18:10にホテルを出た。
 が,結論から言うと間に合わなかった。銀座線で渋谷に出て,京王井の頭線で明大前。京王本線に乗り換えて東府中。この経路では間に合わず。
 といって,赤坂見附で銀座線から丸の内線に乗り換えて,新宿から京王線に乗ったとしても,さほどの時間短縮にはならないと思う。ていうか,もっとかかってしまいそうだ。


● いやね,明大前から橋本行きに乗ったのに,調布で乗り換えるのを忘れたっていうチョンボもあったんだけどね。
 銀座から府中に行くには90分を見込むべし。これってもう小旅行だよねぇ。府中市民が都心に出るときは “東京に行く” っていうはずだよね。
 かつての武蔵国府があったところから,現在の都心まではけっこう時間がかかるのだ。府中に国府があった頃は,今の都心は湿地帯か海の底だったのだろうけど。


● 府中まで何を聴きに行ったかというと,VariOrchestra の演奏会。バリオケと称しているらしい。今回が旗揚げ興業。
 チケットは500円。【teket】により事前に申し込んでおく方式。曲目はベートーヴェンの7番と5番。
 上述のとおり開演時刻に間に合わず遅刻したので,7番の第3楽章から聴くことになった。

● 指揮者がいないことを謳っている。指揮者なしでシンフォニーを演奏すること自体は,たいていできるだろうけど,どこまでできるかはまた別の問題。
 で,どうだったかというと,なまじな指揮者ならいないほうがいいのだな,と思わせる水準。てか,指揮者がいるとかいないとかを,感じさせなかったですけどね。とにかく,勢いがあって。


● 団員の大半は現役の大学生。若いのだ。ここまでの勢いは若さに乗ったものなのだと思う。若いって凄い,と色んなところで思うのだが,ここでもまた。
 ちなみに,この楽団のサイトにはメンバーの出身地であるとか現在の所属であるとかが,顔写真とともに詳しく紹介されている。ここまで団員の履歴をディスクローズしているところは(たぶん)ない。


● あとは,どこまで継続できるかという問題だけが残りますかね。加えて,いつまでも若くいることはできないということ。個々の人間だけではない。あらゆる集団,組織も,必ず老いる。
 創業が江戸時代という老舗もあるが,そういうところは生まれ変わっているのだ。越後屋と三越は一直線にはつながっていない。
 行けるところまでは行く。そこから先はそのときに考える。そうならざるを得ないだろうし,それが正解でもあるのだろう。


● この楽団はそもそもがどういう所以でできあがったのだろうか。サイトには「さまざまなバックグラウンドを持つ演奏家の集う場所へ」と目指すところが掲げられている。
 「さまざまなオーケストラのコンサートマスターやトップ経験者,音大生を中心に構成されています。アマチュアか音大生か,社会人か,そのようなものは関係ありません。音楽を愛し,良い演奏をしたいと考える個性的で多様な人たちが自発的に集まっています」ともある。


● そのとおりなのだろうけれども,言うは易く行うは難しであって,それだけの多彩な素材をバラバラにさせないでひとつの楽団の態を保っていくためには,その中心になって吸引力を発揮できる個人がいなければならないはずだ。
 しかも,その個人(1人とは限らない)がずっと変わらないのでは,いずれ飽きられて分解してしまうだろう。中核が変わっていくことで,まとまりを変えずに維持できる。
 「月に一回程度バリオケメンバーによる多彩な室内楽コンサートを企画しております。月に一回程度でコンサートを開催することを目標としております。」ともあって,かなり野心的だと思うわけだが,相当に熱い人が大車輪で動いたんだろうかなぁ。


● 音大生が多い。入場時に配られたチラシによれば,桐朋7人,国立音大6人,昭和音大3人,東京音大2人,武蔵野音大と藝大が1人。東京学芸大の音楽専修の学生が7人。
 一般大学では東京外大の4人が最も多い。が,東京外大管弦楽団に属している人が12人いて,どうやらここが核になっているようではある。
 外大は府中,桐朋は調布,学芸大は小金井と,まとまったエリアに固まっている。そういったことも関係があったのかなかったのか。

● ともあれ。技術をはじめ,相当なポテンシャルを持った楽団が出てきたという印象。
 当分,Twitterでこの楽団が何をしていくのか,追いかけてみようと思っている。

2021.03.20 Orchestra of Spring 第3回定期演奏会-ブラームスと巡る

めぐろパーシモンホール 大ホール

● 団員たちは,自らの楽団を春オケと呼んでいるらしい。それはどうしたってそうなるだろう。
 その春オケの演奏を聴くのはこれが初めてなのだが,なぜ聴きに行ったかといえば,コロナ禍にあって中止や延期にしないで開催するところを選んでつないでいった結果だ。

● 開演は午後2時。チケットは500円。お約束の事前申込制。【teket】で電子チケットを入手しておく。
 このやり方はすこぶる簡便で,コロナが収束した後もぜひ継続してもらいたいものだ。元の紙チケットに戻すのではなく。
 あとは受付の際の電子チケット(QRコード)の読込みをスムーズにできるようになればいいわけだが,こういうものは要は慣れだ。紙のチケットをもぎるのと同じというわけにはいかないかもしれないけれども,流れを止めずにすむ程度にはできるようになるだろう。

● 曲目は次のとおり。指揮は喜古恵理香さん。彼女の指揮には,ひと月前にも,オーケストラ・ミモザの演奏で接している。
 J.シュトラウスⅡ ワルツ「美しく青きドナウ」
 ドヴォルザーク 交響詩「水の精」
 ブラームス 交響曲第1番

● 春オケのサイトによれば,この楽団は「千葉大学管弦楽団の卒団生有志が中心となり,首都圏近郊の学生・社会人とともに2017年に結成し」たとある。
 まだ若い楽団だ。若さとはそれ自体がひとつの価値だ。その価値の所以を具体的に具体的に体感するには演奏を聴けばよい。

● ブラームスの1番がやはり印象に残る。圧巻の熱演。第3楽章が特に。木管の躍動が印象的。中でもオーボエ。
 この曲がベートーヴェンの第10番と評された所以がやっと理解できた気がする。これだけの演奏をしてもらえればね,そりゃわかりますよ。

● この曲は演奏される機会も多いし,CDで聴くことも多い。何度聴いたかわからないくらいに聴いてはいるのだが,じつは聴けていなかったかもしれない。
 ひょっとしたらブラームスは創り損ねたのではないか,とずっと思っていたのだ。創り損ねたというのがまずければ,まとめきれなかったという表現ではどうか。そんな思いがどこかにあった。
 2番以降のスッキリとした感じに対して,この1番は各楽章が向いた方を向いていて,ブラームスの意思が分散してしまっているような,そんな感想をずっと抱いていたのだ。「聴けていなかったかもしれない」と感じたのはそういうことだ。

● プログラム冊子の曲目解説では,「暗から明へ」が強調されている。ここでもベートーヴェンに敬意を表したのか,そうするのと収まりが良くなるのか。が,ベートーヴェンの5番のような骨太の「暗から明へ」のストーリーがあるわけではないようだ。
 ベートーヴェンは「暗から明へ」以外の聴き方をするのは難しいけれども,ブラームスのこの曲は必ずしも「暗から明へ」に捉われることもないのではないか。聴く側に想像(あるいは妄想)の余地を残しておいてくれるところがある。

● ドヴォルザークの「水の精」を生で聴くのは初めて。CDでは数回聴いていると思うのだが,「水の精」と聞いてまず浮かんでくるのは,ワーグナーの “指環” だ。「ラインの黄金」での3姉妹だ。
 ストーリーをきちんと知ったのも,今回の曲目解説を読んでのこと。

● 交響詩とはいえ,その詩の内容を言語的に知っても仕方がないとも思っている。たとえば,スメタナ「わが祖国」の “モルダウ” を聴くときに,「この曲は,モルダウ川の流れを描写している。源流から流れだして,森林や牧草地を経て,農夫たちの結婚式の傍を流れる・・・・・・」ということを知っていないと,この曲を味わうことができないとは思われない。
 むしろ,知るとそれに捕らえられる。知らないほうが想像力を遊ばせることができる。作曲家の創作動機やそこに込めた思いからも自由でいられるのが,聴き手の特権というものではないか。個人レベルで勝手な聴き方をするのが良い。そういう聴き方はした者勝ちというところがある。
 しかし,この曲のストーリーは知っておいた方がいいようだ。

● アンコールはブラームスのハンガリー舞曲第1番。
 バレエやオペラが典型的にそうだと思うのだが,本番で優雅に見せるものこそ,練習は泥臭くなるものだろう。練習も優雅にというのはあり得ない。
 管弦楽も同じであって,ドレスをまとってステージで演奏するのだから,その様は優雅でなければならない。本番で髪振り乱すところを見せてはならない。しかし,その分,練習では泥臭くあらねばならない。というより,否が応でも泥臭くなる。
 その点,客席にいる分には練習は要らない。優雅な様を見るだけでいい。
 ここまで聴ければ充分だ。ホクホクしながら都立大学駅に向かって柿ノ木坂を下って行きましたとさ。